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木村威夫が『OLD SALMON 海を見つめて 過ぎた時間』の構想を映像化するにあたり最も魅了されたのは洞窟に閉じ込められた女王役の深緑夏代だった。10代から宝塚で活躍し、その後シャンソン界の女王となった深緑夏代の佇まい、雰囲気、そして声と圧倒的な存在感。氏の言葉で言えば『年輪』が今回の映画のコンセプトと合致したのだ。
両人とも80歳を超える高齢だが、その仕事への情熱は衰える事なく磨かれていく。そんな二人のコラボレーション『私の胸はからっぽなの』は木村威夫が作詞し、深緑夏代が歌いラストシーンで悲しみにくれる洞窟の女王の感情の動きを見事に表していると言えるだろう。
美術監督を長年務めてきた木村威夫の作品は、無駄なものがひとつもないと言い切れるだろう。優れた映像作品が全てそうであるように、スクリーンに写る全てが世界を構成している。その中でも映画の中で特に重要なファクターと存在する象徴的なものをいくつか紹介しよう。まず重要なのがいたる所に出てくる床屋の「三色ねじり棒」。赤と青は静脈と動脈を表している。まさに人間の存在そのもと言っても過言ではない。その「三色ねじり棒」と海のコントラストがまた美しく、海から全ての生命が始まったという事も暗に表しているのかも知れない。その他にもストーリーの鍵を握る赤いひも。洞窟の女王が託す薄紫のショール等。巧みな技で小道具を配置しているのだ。
冒頭の岩の動きから、深緑夏代の登場、そして海辺のダンスシーン等。観るものを徐々にその映像世界に引き込んでいくだろう。そして深緑夏代の登場シーンで使われている華麗なセット。
今回この映画で美術を担当した安宅紀史は、鈴木清順の最新作「オペレッタ狸御殿」でも木村威夫の下で美術を担当、もちろん内海利勝のプロモーションビデオ「街」でも美術を担当した木村美術を最も知る男である。撮影は白尾一博が担当、こちらも「街」、前作「夢幻彷徨」でもカメラを回した。編集とコンピューターグラフィックスも白尾一博が担当。安宅紀史と白尾一博という最も木村威夫を理解するスタッフ達の協力のもと、今作のイメージが具現化されていったのだ。
音楽はAIRPLANE LABELのアーティストが担当した。音楽映画のような今作では映像と音楽も完璧な融合が果たされている。
叙情的なヴァイオリンのソロはうらぶれたカフェのイメージを、バーバーのシーンではMooneyのアーリーアメリカンな楽曲が木村美術に新たな魅力を加えている。故寺山修司に見い出された女性シンガー万琳はるえが歌うニンゲンマンの楽曲『過ぎた時間』にも注目が集まる。映画のサブタイトルにもなっている、木村威夫の特に思い入れの深い詩、シュールなメロディが物語りの中盤で胸を打つ。
そして、なんと言ってもクライマックスの見事な呼び水になっている喜多直毅の黒い装束の女との最後のダンスのシーンでのヴァイオリン演奏ははずせないところだろう。木村映像とヴァイオリンという新たなコラボレーションに是非注目してほしい。

 

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