トップ | 解説 | 物語 | 手紙 | キャスト | スタッフ | コメント | 公開情報 | 宣伝blog | LINK | クレジット   
 


急  
監督メッセージ 〜 ないしょの内緒 〜  

永い年月、私は老妻に迷惑のかけ通しだった。
その老妻がついにボケてしまった。仕方なく老人ホームに入ってもらった。
三日おきに訪問する私に「早く家に帰りたい」と言う。
「こうしていれば、入浴もさせてくれるし、三度の食事は勿論のこと、
おいしい三時のお茶の時間もあるし、部屋の隅には車椅子で入れるトイレもあるし…と、なぐさめるのが精いっぱいであった。
こういう老夫婦の有様をドキュメンタリ−タッチで映像に収めれば間違いないものが出来上がるが、どうにも、その気になれない。
自分もいつ「ボケる」のかもしれず…と思うと暗い気持ちになって、
もっと晴れやかに、おもしろ、おかしく、老人同士をえがいてみたい…と思うようになった。
古い私の雑記帳に、病室らしい図がかかれて…脱出する方法について…
そして、夜の道をさまよう老人…とメモがある。
学歴の無い植物学のえらい老人が、植物学一筋に生きてきて、若き日に何もしなかった後悔の思いが、一気に充満して、夜中にホームを脱出するのである。
夜道の途中で池の中に黄金に輝く花を見つける。老博士の驚き…。
崖をやっと降りて取ろうとする瞬間、ずるずると深い泥水の中に沈む、その一瞬の間のイメージが、変化、変容していつの間にか、老博士は青年になっていた。
そして、好きなように動き廻る…といったメモが単純に記されてあった。

黄金花の花は、その池のそばにあるお寺の葬式用に供えるための、金色に塗られた蓮の造花である。
葬式が終わったので池の中に迷うように浮いていた…という設定なのだが…。
早朝、溺死した老博士の遺体のそばには救急車の赤いシグナルが、クルクル廻転していて、いつもやさしかった婦長さんがうつむいて泣いている…といった単純なおはなしであるのだが…。
話の芯はこれでよいとして、大幅に改稿しなければならず、これからがどういう風に発展するか、毎日悩み乍らの思考となった。
松坂慶子さんが出演してくれるというので、婦長の話をふくらませたり、夢幻の世界を導入したり…と話は複雑化していった。
敗戦後の日本の姿をリアリズムではなしに象徴的にえがくために、ビニールの布をいっぱい使用した。
私の短編第4作「馬頭琴夜想曲」で実験済みなので少々自信はあった。
前後のつながりや、時間的無視といったものを始めとして、在来の映画文法を少々壊してみて、どうにかフォルム主体の作品となったようである。
木村威夫

 

エアプレーンレーベル 太秦 株式会社
Copyright 2009 PROJECT LAMU Inc. / UZUMASA All rights reserved