"King Lear" リア王  based on William Shakespeare

古舘徹夫

Voice: Leif Elggren


リア王は視力が衰えていく老人の物語だ。
彼は物語につれて次第に焦点を合わせることのできる対象を失っていく。視線は狂気の体を装いながらも確実に機能しているのに、気が付くと見るべき/見ることの可能な存在が全て、ひとつひとつ着実に減少し喪失していくことに気付く。

実は老人が衰えてゆくのではなく、彼の周辺の物共が彼よりも先に枯渇してゆくのだ。
彼に残される焦点を合わせ得る物はことごとく喪失してゆく。
最後にはその対象はただ一本の水平線のみになる。
何もない月面のような廣野と虚空とを裁断する線。
最遠の地平線までの間に視線を遮る存在を全て失う。
見ることは欲望と目標と意志を意味する。
見ることのできるものを失ったとき、その剥奪は肉体の消耗によるものではない死を意味する。

その時、忘れられていた耳は何を聞くのだろうか?

無目的の音 追憶の音

水平線の音 終了の音