「日本男児ここにあり!」とでも云うような荒巻茂生の雄叫びを聴いた(笑)。
ARAMAKI BAND名儀での3作に続くこの最新作は昨年11月の録音で荒巻茂生名儀となっている。
全曲荒巻のオリジナルという点では第2作と同様だが、これまで以上に全員が日本の伝統を尊重し、日本人気質に漲る緊張感溢れる演奏を繰り広げてぼくの胸にもグッとくるものがあった。
1曲目の「KODO」は「鼓動」ではなく熊野の「古道」だ。旧作「紀州」の様に雄大で荘厳な曲想を持つ傑作だ。
長年の仲間、竹内直、吉田桂一、本田珠也の荒巻ジャズの理解度も5つ星(笑)。
テナーの重鎮峰厚介が3曲に客演しているが、まるでずっと一緒に演ってきたかのように一体感のある演奏で流石だ。
クローサーの「オールド・フォークス…」はほのぼのとしてくつろぎ感のあるいわば普通のジャズ語法で書かれており、楽しく聴けてもう一度アルバムを最初から聴きたくなる効果を持つ。
現代日本のジャズを代表する一枚として喧伝したい。
【TBMレコード/藤井 武】

いま最も力感に溢れ、刺激的で先鋭的かつ創造性に富むユニット。
それがベーシスト、荒巻茂生率いる”ARAMAKI BAND”である。
リーダーの荒巻にテナーの竹内、ピアノの吉田、ドラムスの本田という一騎当千の面々は、これまでのアルバムやライブで、その最強振りを誇示してくれたが、中でも前作『ライブ』での、怒涛のジャズ組曲“Kuroshio”(荒巻作) に、その究極のパワーが集約されていた。
そしてこの新作『フロム・ザ・イースト』である。今作では荒巻の個人名義ではあるが、ジャズ・レジェンドとも言えるこうちゃんこと峰厚介を迎え、竹内直とのツイン・サックスという強力布陣で、彼らは新たな一歩を歩み始めた。
それはあたかも、あのエルビン・ジョーンズの(ツイン・サックス)ユニットに、荒巻が敬愛し目標とするチャールス・ミンガス・バンドを相乗・再現させたような、強力なエナジーを有する。と同時にそれは、“和=極東”の血が滾った、“益荒男ジャズ”とでも呼べそうな、鮮烈な色合いと匂いを有する、真の男達によるジャズでもある。
極東発信のこのハードボイリッシュな“ジャズ宣言”に浸れ!
【08/5−5 小西啓一】

中国の北京。
インドのデリー、バングラデシュのダッカ、今アジアの都市が、将来の夢に溢れた若者達の熱い思いに燃えている。
荒巻茂生4作目の「From The Fair East」一曲目の「Kodo」からもその思いが伝わってくる。
出だしのピアノとサックスが後の興奮を伝える期待感を静かに奏でる。
そして荒巻のベースが加わった途端、豊かで心地よい疾走感に全身が包まれる。
和のテイストがリズミカルな音楽性をより引き出させているように思える。映画「ブレイドランナー」そこで描かれる近未来の世界観は、アジアの混沌である。
混ざり合いうねり豊かさを求めていく。
この作品もアジアに魅せられる一つの示唆となることでしょう。
【ジャズ喫茶 映画館/吉田昌弘】

エアプレーン・レーベルから荒巻茂生の新作リーダー・アルバム「From The Far East」が届く。
もちろんCDなので恐縮だったが自分のコンピュターとそれに付帯する貧弱なオーディオ・システムで再生してみた。が、一音目が鳴ったとたん不覚にも呆然と動きが止まってしまった。
再生された音が、こんな体験が、本当にもう何十年前になるだろう、はじめてマル・ウオルドロンのLPや、ギル・エヴァンスや、そうそう「至高の愛」やetc、回転するLPに緊張して針を落とした時の音の感覚が、その瞬間の興奮の記憶がどっとおしよせてきて唖然としてしまった。もう何十年ぶりだろう。
こんな時を聴くことができたのは?
その記憶は昔、子供のころ、一枚のLPを購入して針を落とすことは贅沢で貴重な時間だった。
スピーカーの前に正座しジャケットを見つめながら過ごす集中と至福の片面。その間にライナーを読むのはちょっと邪道だったかな。そんな時間がLPの回転と共にあった。
「From The Far East」のジャケットはどうしたらこんなにまさにの東京が撮れるのか?と問いかけてしまう写真に飾られている。この写真、いつまでも見つめてしまう。曇天のでも色彩豊かな東京が、六本木が、写し出されている。
ぼくらは確かに、この街で生まれ、育ち、格闘し、挫折し、歩き、食べ、喋る、そして少しづつ成長し老いていく。この眼下の路地の角角に記憶が埋め込まれている。なんてノスタルジックで魅惑な危険を含んだ甘いカバーに包まれたアルバムなのだろう。
【ノイズミュージシャン/古舘徹夫】